「コミュニケーション力が大事だって言われるけど、具体的に何を鍛えればいいんだろう…。技術力は十分あるつもりなのに、なんで書類や面接で落とされるんだろう…。明るく振る舞うようにしているし、話し方も気をつけているつもりなのに…。採用側が本当に見ているものって、いったい何なんだ?」
こういった疑問に答えます。
この記事が解決すること:技術力は十分なのに転職がうまくいかないエンジニア向けに、採用側が本当に重視している「コミュニケーション力」の正体を実体験ベースで解説します。専門用語も噛み砕きながら進めます。
本記事の内容
- 採用データが示す「コミュニケーション力重視」の実態
- 「明るさ・話し方」という誤解が生まれる理由
- 大企業AI推進ポジションで気づいた越境型翻訳力の正体
- 面接・職務経歴書で越境型コミュニケーション力を語る実践法
- 採用側の思考を学ぶためのおすすめ書籍
この記事を書いている私は、エンジニアとして働きながら大企業でAI活用推進を担当しています。自分自身の転職経験と、採用に近い立場で気づいたことをベースに書きます。
エンジニア転職でコミュニケーション力が見られている、は本当だった

AI推進のポジションに移ってから気づいたことがあります。技術力があるエンジニアでも、採用で落ちる人と受かる人の差が、思った以上にはっきり分かれるんですよね。最初は「相性の問題かな」と思っていたんですが、実は全然違う話でした。
採用でお見送りになる理由1位は「コミュニケーション能力不足」
まずデータから確認しておきます。
レバレジーズ株式会社が2022年8月に実施した調査によると、中途ITエンジニアのお見送り理由の1位は「コミュニケーション能力不足」で、その割合は39.3%でした。さらに同調査では、採用選考で最も重視されるスキルとして「コミュニケーション能力」が60%で1位にランクイン。技術力とほぼ同率というのが実態です。
※2022年のデータですが、複数のエンジニア系メディアで引用されており、業界の定説として定着しています。
新卒採用でも同様の傾向があります。日本の人事部「人事白書2025」によると、新卒採用で重視した能力の1位は「コミュニケーション能力」で82.0%。ただしこれは新卒の話なので、中途採用の数字と単純比較するのは注意が必要です。
要するに、「コミュニケーション力が大事」というのは採用担当者の間での共通認識として、数字でも裏付けられているわけです。
技術力は「参加チケット」になった──2026年の採用市場の実態
もう一つ重要な変化があります。
かつては「技術力さえあれば転職できる」が半ば常識でした。しかし今は違います。エンジニアtype・久松剛氏の論点を借りるなら、技術力は「十分条件」から「参加チケット(必要条件)」に変化した、という言い方が正確です。一定の技術力に加えて、ビジネス課題を解決できる力が求められる時代になっているんです。
採用市場のデータを見ても、doda調べで2026年3月の新規求人倍率は2.9倍(2025年3月の4.0倍から1年で1.1ポイント低下)。採用意欲が「拡大」から「厳選」へシフトしています。ITエンジニアの有効求人倍率は2026年4月時点で1.1倍と全職種平均を上回る水準ではあるものの、かつてのような「技術者なら誰でもウェルカム」という時代は終わっています。
ぶっちゃけ、これが「技術力は十分なのになぜ転職がうまくいかないのか」という悩みの根っこにある話です。

「コミュニケーション力」という言葉の罠──明るさでも話し方でもない
「コミュニケーション力を磨け」の正体は何なのか
「コミュニケーション力が大事」と言われたとき、多くのエンジニアが思い浮かべるのはこういう対策じゃないでしょうか。
- 明るく振る舞う
- ハキハキ話す練習をする
- 面接でも笑顔を増やす
- 結論から話すフレームを覚える
間違いとは言いません。でも、これは「コミュニケーション力を磨いた」というより「プレゼンテーションの見た目を整えた」にすぎないんです。
採用担当者が30分の面接で見たいのは、「この人と一緒に仕事できるか」という根本的な判断です。明るさや話し方は、その判断材料のほんの一部でしかない。
エンジニアが誤解しがちな「社交性」と「ビジネスコミュニケーション」の違い
ここを整理しておきます。
社交性
人と打ち解けやすい・場の空気を読める・雑談が得意といった、対人関係の基礎的な能力。エンジニアの採用で「コミュニケーション力」と言われているものの一部でしかない。
ビジネスコミュニケーション
利害が異なるステークホルダー(上司・役員・現場・他部門など)の間で情報を整理し、合意を形成して意思決定を動かす能力。エンジニア採用で本当に問われているのはこちら。技術的な話を非エンジニアに翻訳できるか、が核心になる。
この2つを混同しているエンジニアは非常に多い、というのが私の実感です。社交的じゃなくても、ビジネスコミュニケーションで高く評価されるエンジニアはたくさんいます。逆に、場の空気を読む力は高いのに、ステークホルダー(ここでは意思決定に関わる関係者のこと)との折衝が苦手なエンジニアも多い。

転機になったAI推進ポジション──採用側が見ていたのはこれだった
技術と非エンジニアの間に立つ「翻訳者」としての役割
私が大企業でAI推進ポジションに就いたとき、最初に求められたのはコーディングでもモデルの精度改善でもありませんでした。
「この技術が、なぜ今の現場の課題を解決するのか」を、役員や現場の非エンジニアに対してわかりやすく説明する力でした。
例えば、AI推進の文脈では「このAPIを使えば処理が10倍速くなります」という説明はエンジニア向けには通じます。でも役員向けには「今月XX万円かかっている作業が来月から不要になります」という翻訳が必要なんです。
技術を技術のまま説明しても、意思決定権を持つ人には刺さらない。ここに気づいた時、「コミュニケーション力重視」の本質が初めてわかった気がしました。
利害関係を調整し、意思決定を後押しする力──越境型コミュニケーションの実態
AI推進という仕事は、複数の部門をまたいで調整する仕事でもあります。
情報システム部門は「セキュリティリスクを下げたい」、現場の業務部門は「とにかく早く使いたい」、経営層は「コストと効果を見極めたい」──それぞれの利害は微妙にずれています。
このずれを整理して、全員が「納得できる落としどころ」を作る。これが越境型コミュニケーションの実態です。「越境」とは、エンジニアと非エンジニアの境界を越える、という意味合いで使っています。
メガベンチャーへの転職経験者のインタビューを読んでいても、「転職後に最初に評価されたのはステークホルダー管理力だった」という話が繰り返し出てきます。透明なコミュニケーションと合意形成プロセスを実行できる人が、技術力の高さに関係なく早期に評価されるんですよね。
AI推進・DX推進領域では特に顕著です。「モデルを作れるだけでなく、なぜそのモデルなのか・どう使って価値にするのか」まで説明できる人が最上位評価の対象になっています。

「何ができるか」より「誰のために、何を動かしてきたか」を語る転換点
この気づきから、面接での語り方が変わりました。
以前の私:「〇〇言語で、〇〇システムを構築しました。処理速度を30%改善しました。」
変わった後:「〇〇部門の業務負担が月40時間あることを課題として設定し、エンジニアチームと現場の間に入って要件を整理。結果として現場の〇〇さんたちの残業が月20時間削減できました。」
後者のほうが、採用側には刺さります。なぜかというと、採用担当者が本当に知りたいのは「この人が入社したら、誰の課題を解決してくれるのか」だからです。技術的なスペックはあくまで手段でしかない。
- 翻訳力:技術的な話を、役員・現場など非エンジニアが意思決定できる言葉に変換する
- 利害調整力:複数のステークホルダーの異なる要求を整理し、合意できる落としどころを作る
- 意思決定の後押し力:「誰のために・何のために」を軸に据えて、動くべき人・組織を動かす
越境型コミュニケーション力を面接・職務経歴書でどう語るか
職務経歴書で「動かした人と結果」を書く具体的な方法
まず職務経歴書から見直しましょう。
多くのエンジニアの職務経歴書は「使用技術・担当領域・規模感」の三点セットで書かれています。これ自体は悪くないんですが、越境型コミュニケーション力を見せるには「STAR型」の構成が有効です。
S(Situation):状況
そのプロジェクトが始まった背景・課題の所在を書く。技術課題ではなくビジネス・組織上の課題として言語化するのがポイント。
T(Task):役割
チーム内での自分の立ち位置と担った責任範囲を書く。「エンジニアと現場の間の調整役」「役員への定期報告担当」など、誰との接点を持っていたかを明記する。
A(Action):行動
何をしたかを書く。技術的な実装だけでなく、誰と・どんなコミュニケーションを取りながら動いたかも書く(例:「週次で役員に進捗報告し、方針の認識齟齬を防いだ」)。
R(Result):結果
できれば数字で。技術的な数値だけでなく、誰にどんな価値を届けたかを言語化する(例:「現場部門の残業が月20時間削減」「役員の承認スピードが平均2週間から3日に短縮」)。
このSTAR型で書くと、同じ実績でも「技術的な成果物」から「ビジネス・組織への貢献」として読めるようになります。

面接で「誰のために、何を動かしてきたか」を語る3つの型
面接では職務経歴書よりも圧縮した語りが必要です。以下の3つの型を意識するといいです。
「〇〇部門の△△という課題に気づき、エンジニアチームと現場の間に入って要件を整理しました」という形。課題の発見→橋渡しの行動という流れで語ることで、翻訳力をアピールできます。
「利害が異なる〇〇部門と△△部門の意見をすり合わせ、〜という方針で落とし込みました」という形。利害の異なる相手を動かした経験を語ることで、利害調整力をアピールできます。
「役員・経営層への説明を担当し、〇〇の判断を引き出しました」という形。意思決定者を動かした実績を語ることで、組織への影響力をアピールできます。技術力の説明が一切なくても、これが言えるエンジニアは採用側から「任せられる」と評価されます。
ぶっちゃけ、この3つの型で語れるエピソードが1つもない場合は、「越境型コミュニケーション力を発揮した経験がまだない」という状態です。その場合は、今の職場で意識的にそういった経験を積んでから転職活動に臨む、という順番が現実的です。
採用側の視点を理解することが、最大の武器になる
採用担当者が「この人なら任せられる」と思う瞬間
採用担当者が「この人なら任せられる」と感じる瞬間は、技術的なスキルの高さを確認したときではありません。
「この人なら、エンジニアでない上司や役員と話して、プロジェクトを前に進められる」という確信が生まれた瞬間です。
それを証明するのは、過去の具体的なエピソードしかない。「〇〇さんを動かしました」「〇〇部門との合意を取り付けました」という一人称の経験が、採用側には何よりも説得力を持ちます。
とはいえ、採用担当者がどういう思考プロセスで候補者を評価しているのか、構造的に理解したい方には、書籍から学ぶのが一番効率的です。
エンジニア採用担当者の思考を学ぶおすすめ書籍
採用側の論理を理解する上で、最もダイレクトに参考になる1冊を紹介します。





